株式会社OpenFashion.でCGデザイナーとして活躍する牛山さんに、デジタル領域におけるものづくりの変化と、より重要になってくるものに関して話を伺いました。
プロフィール 牛山直輝
株式会社OpenFashion CGチーム
アパレル業界で働く3DCGデザイナー。パチンコ業界で7年働いたのち、非エンタメ分野に興味を持ち2019年転職。自身は型紙は作れないが、効率的なCG制作ができるように様々なワークフローを立てては検証している。直近はCGとAIの掛け合わせでどのようなものが生まれるのかという事に興味津々。

デジタルヒューマンの表現力に惹かれた
普段はCGチームのリーダーを務めています。現在所属するCGチームは、2019年に発足しました。それまで違った事業を行ってきた会社の中にできたチームで、何もないところから部署を立ち上げる形になりました。そのため、ワークフローの整備や、マニュアルの策定から始めました。私自身の業務としてはマネジメント業務が中心となっています。
Q:現在の業界に入るきっかけはありますか?
CGの表現でどこまでリアルな人をつくることができるか、デジタルヒューマンの表現に興味を持ったことです。当時、デジタルヒューマンとして登場した「Saya」の表現力に驚きがあり、この業界に興味を持ちました。
※参考:デジタルヒューマン「Saya」https://www.telyuka.com/saya
Q:実際にデジタルヒューマンに関する仕事は、どんなものがあったのでしょうか?
2019年に今の会社に入社したのですが、入社してすぐにデジタルヒューマンをつくるプロジェクトに参画しました。ファッション特化のCGプロダクション『X(Cross) Production』という取り組みが会社で立ち上がり、『X Production』の第一弾プロジェクトとして、デジタルヒューマン「葉山ニーナ」をつくりました。
当時は国内において、まだ数体しかデジタルヒューマンは存在していませんでした。現在のデジタルヒューマンはフルCGのものが多いですが、当時は体や背景は実写で、顔だけCGのデジタルヒューマンが多くありました。なぜ顔だけCGかといえば、服のCGで表現をするコストがあまりに高く、コストをかけないとチープなものになってしまい、顔以外は実写にすることが多かったんです。
ただ、顔だけのCGとする場合には、結局通常の人物の撮影や背景セットの制作が必要となり、その上でCG合成を必要とする工程にかかるコストの問題から取り組みは止まってしまいました。今のCGソフトであれば、より高精度ものを以前より効率的につくることはできるのですが、フルCGだとしても結局コストが多大にかかってしまう課題は残ります。今は生成AIの台頭もあり、何のために3Dのデータを使うのか?それを考えないといけない時代に変わってきているように感じます。


個人のクリエイターが強い世界
Q:お話に出ました、生成AIの活用としてはどんな取り組みをされていますでしょうか?
当社では、生成AIを活用したツール「Maison AI」を開発・提供しており、主にアパレル業界を中心に、画像生成・テキスト生成・データ解析など幅広い用途でご利用いただいています。そうした取り組みの一環として、画像生成AIの可能性や楽しさをより多くの人に伝えるための活動も行っており、コンテスト形式でユーザー参加型のプロジェクトを展開しています。
CGに結び付いたプロジェクトとしては2023年からは、AC9(エーシーナイン)というプロジェクトを始動。これは、画像生成AIによって創られた架空のブランドで、社内でデザインするのではなく、ユーザーがテーマに沿ってデザインを投稿する形を取っています。集まったデザインの中から選ばれた作品は、ZEPETO上で3Dアイテム化して展開しています。3D化には専門知識が必要なため、当社がその部分をサポートしています。これまでに数十回のコンテストを開催し、多くのユーザー作品をZEPETOでアイテム化してきました。



Q:ZEPETOでアイテム販売を行う中で、感じたことはありますか?
個人クリエイターが非常に強い世界だと感じました。現実の服づくり――つまり、実際に生地を使って服をつくり、販売するには、資金や流通面でのハードルが高く、どうしても小規模な展開になりがちです。
一方で、ZEPETOなどで行われているデジタルな服などのアイテム販売は、個人クリエイターにファンがついており、売り上げを伸ばしているように感じます。
ZEPETOに限らず、どのメタバースでもそうかもしれないのですが完全に市場が出来上がっていない中で、個人のクリエイターの活動は特に目立つものになっているように感じました。
AIの台頭による意図して作ることの重要性
Q:デジタルファッションの魅力とはどんなところにあるでしょうか?
魅力としては、誰でもデザインができる時代になったと感じることです。CLOだったり、Marvelous Designerなどのツールで服が縫えない方でもCGの服をつくれるようになりました。ただ、そのツールを使えるようになるための習得コストが高いという課題が残ります。一方で、画像生成AIの発展により、自分の想い描いたものを生み出すことも、あるいは自分が思い描いていないものまでを生み出すことができるようになったと思います。それにより、デザインの敷居が下がり、多くの人がチャレンジできる環境ができたのではないかと思います。
Q:それによって、生まれる良い点と悪い点はありますか?
例えば、偶然出来上がったものが意図したものではない場合、意図がない故に、つくったものへのこだわりを人に説明できない場合があります。単にかっこいいから、という理由のみで人に魅力を伝える言葉を持たないものが生まれてしまう。さらに、画像生成AIはオンライン上にある作品を学習してつくられるため、既存の何かに似ている可能性が残ってしまいます。その点において、ものをつくる敷居は下がった一方で、課題はまだまだあると思います。
良い点としては、デザインのバリエーションを瞬時に出せるということがあり、ただ悩む時間が少なくなり、生み出された数百ものバリエーションの中から思考を深めることができるのが良い点だと思います。
AIを使った作品にも唯一無二の作家性が存在する
Q:そうなると、確立したブランドを生み出すことは難しくなるのでしょうか?
私の管轄ではないのですが、OpenFashionの主催で、TOKYO AI ファッションウィークというイベントを行っております。これまで複数回実施しているのですが、その結果を見るとブランドを確立できている作品があります。なぜなら、その中で生み出されて作品に、唯一無二の作品性を感じる作品があるからです。そういった作品には、「こんなものをつくりたいんだ」という想いが土台にあり、その他の作品とは一線を画すものが生まれているのではないかと思います。

Q:生成AIの台頭により、CG制作の職業はAI奪われてしまうものでしょうか?
そう言われることもありますが、全てが必要なくなるわけではないと思います。様々な会社の3D担当者と話す機会があるのですが、生成AIに対して好意的な意見が多いです。例えば、これまで作業となるような部分に多くの時間をかけていたところを生成AIに任せ、より表現を豊かにする部分に対して人が手を動かす時間にできます。結果として、表現の幅が広がります。確かに人が作業するよりも、生成AIを使ったほうがよくなる作業があります。その一方で、人が介在することの必要性や、これまでなかった仕事も生まれ、人の介在価値が新たにうまれるのではないかと思います。
Q:今後の作品制作により求められるものはどんなものになるのでしょうか?
これまでも重要だったものですが、「コンセプト」という創作の軸が非常に重要になってくると思います。
私自身、大切にしていることとして、「意図したものをつくる」ということがあります。生成AIは偶然の産物が多く生み出されます。偶然の産物を自分の作品としてしまった時に、説明ができないものとなり、それを自分の作品とすることも難しくなってしまうと思います。だからこそ、生成AIを使う上で、「意図したものをつくる」ということを大切にしています。

